眠れぬ夜に妖怪を思ふ。

ミートボールとハンバーグの何が違うんだろう?ミートボールは小さな球体でハンバーグは平たい楕円形で形や大きさは明らかに違う。揚げたり煮込んだりするのか、焼くのかといった製法も異なるということが言えるだろう。うちの息子はそんなマニアックな違いを察知してミートボールを拒否してるんだろうか。ハンバーグはぱくぱく食べるくせに、ミートボールを嫌がるのである。

皿に盛られたミートボール、今日は少しは食べたんだろうか?と思いつつ口に運ぶ。結構残ってるということは、やっぱり食べなかったのかもしれない。子供のころ、ミートボールが弁当に入ってたら嬉しかったけどな、なんて久しぶりに幼少期のことを思い出した。さすがに1歳半のころの記憶はないから、自分だってその頃は相当な偏食だった可能性はある。まぁ、もう少し様子を見てもいいだろう。

ンギャー!けたたましい泣き声が2階から聞こえる。帰り際に妻から「今日は早めに寝かしつけをはじめたよ」とメッセージがあったから、もう1時間ぐらいは奮闘しているのかもしれない。ちょっと見に行ったほうがいいだろうか?いや、しかしもうちょっとがんばろうと思ってるところを邪魔してしまうかもしれない。だいたい「自分なら寝かしつけられる!」みたいな感じで早々に参上するのはどうかとも思う。

特に誰とも会話することなく、テレビを見るわけでもなく食べることに専念すると夕食はあっという間に終わった。いつかは息子に向かって「もっとしっかりよく噛んで食べなさい」なんてことを言わなきゃいけないはずだが、自分のことを棚に上げて言える気がしない。それとも、気がついたら自分もずるい大人の仲間入りをして、平気で息子を叱りつけてしまうんだろうか。

ンギャー!ンギャー!そろそろ行ったほうがよさそうだ。いそいそと階段を昇り、寝室に向かう。そこには泣き叫ぶ息子と疲れた妻の姿があった。いつも玄関を開けて目が会ったときは息子はにこにこして迎えてくれるけど、今日は一瞥しただけでひたすら泣きながら妻に手を伸ばしていた。いきなり引き離すわけにもいかず暫く様子を見ていたのものの、抱き上げても息子はずっと泣き止まず、「ちょっと引き受けるよ」と声をかけて後ろから息子を抱き上げた。

ウワギャー!ウワギャー!泣き声のボリュームが2倍ぐらいになった。全力で嫌がられて少し意気消沈しながらも、とにかく穏やかに声をかけつつ部屋を出る。幼児虐待を疑われそうな泣き声は続く。自分で言うのもなんだが、何かの間違いで虐待の疑いがかかったら「優しそうでそんなことをする人には見えませんでした」と近所の人に言わしめるベタ展開になるのは間違いない。そして、このまえ一回キレてしまったときの怒鳴り声を聞かれてて「そういえば・・・」とか言われるんだろう。そう容易く人々の娯楽になってやるわけにはいかない。

玄関のドアを開けると、息子はぴたりと泣き止んだ。既に「せけんていだいじに」とか考えてるんだろうか。たぶん違う。外の空気ややわらかい明かり、かすかな虫の声なんかが落ち着くんだろう。よし、少し川沿いを散歩しようか。しばらく歩いてると辺りをキョロキョロ見回していた息子は急に力なくうなだれた。子泣き爺という妖怪はこうやって子供を寝かしつけてた人が創り出したに違いない。息子の体重が1.5倍ぐらいにはなったような気がする。これでふと見たら爺になってたら、そりゃ衝動的に川へ放り投げずにはいられないだろう。

そうこうしているうちに息子はすぅすぅと寝息を立て始めた。念のため顔を覗き込んでみるが爺にはなっていない。僕はほっとしながら、しかし汗だくでふらふらになりながら玄関のドアを開け寝室へ戻ると、布団の上にそっと息子を寝かせた。驚くべきことに部屋で待っていた妻は老婆に変貌しており、疲れ切った僕に向かって大量の砂を投げつけてきた・・・なんてことはもちろんなかった。このまえ久しぶりにテレビでゲゲゲの鬼太郎を見たから懐かしくてつい。