ボクはお風呂チェアになることしかできなかった。

今日はうちの奥さんと息子がベビーヨガに行く日だった。家に帰ると、疲れたのか息子はすやすやとよく眠ってた。

ベビーヨガというのは、やたら赤ちゃんを乱暴に扱うものだったらしく、話を聞いてると、そんなことして大丈夫なのか?!と思うようなことがいくつもあった。ボクらが慎重に扱いすぎているだけで、赤ちゃんってのはもっとタフに仕上がっているのかもしれない。でもこわい。

ずっと寝てたら寂しいじゃないか。早く起きないかなぁなんて思ってた甘ちゃんすぎる自分をこのあとボクは呪うことになる。

息子が起きた!駆け寄った。まだ寝ぼけててぼんやりしてる。急に口がへの字になった。次の瞬間、火がついたように泣きはじめた。慌てて抱き上げる。さらに鳴き声は激しくなり、甲高さがプラスされた。どんだけあやしてみても、さらに激しさを増すばかり。見かねた奥さんが手を伸ばし、ボクは素直に息子を差し出した。しばらくグズっていたけれど、驚くほど静かになった。

やっぱりパパの抱っこじゃダメなのか。

落ち着いたし、そろそろ風呂に入るよと奥さんは息子をボクに託した。しかし、数秒のうちに息子はへの字口になり、また燃え盛りはじめた。しばらく努力するも、どうにもならないどころか、さらに激しく燃え盛る。た、たすけて~。また、奥さんが抱っこすると息子はあっさりと沈静化した。

やっぱりパパの抱っこじゃダメなのか。

とりあえず、息子をさっさと風呂に入れてしまおう、ということで、もはや自分たちが湯船に浸かることはあきらめて、息子が入れるよう、水を足してお湯の温度を調節する。僕が抱きながら、湯船に浸かる。奥さんが息子の身体を洗う。グズグズからの~大絶叫がはじまった。

やっぱりパパの・・・以下略。

奥さんに抱かせてボクが息子の身体を洗う。グズグズ言ってたけど、なんとか終了。息子の身体を拭いてやり、服を着せる。さっと風呂に入ってくるよ、と奥さんが姿を消すと、また息子は燃え盛った。

やっぱりパ・・・以下略。

しばらく、奥さんがあやすと息子はおとなしくなり、ボクはどうしようもなく、息子を抱きながら風呂場の前で奥さんが出てくるのを待機することにした。これなら、泣いてもすぐに奥さんが顔を見せれば泣き止むに違いない・・・って甘かった。一瞬で息子は燃え盛り、ボクの心を灰にした。

こうなったら、奥さんが身体を洗う間、2人で湯船に浸かっていよう。ずっと奥さんの姿が見えてれば安心するんだろう。ボクは息子のお風呂チェアになることにした。のぼせたら困るから、あまり湯船に浸かりすぎないよう身体を支えてやる。をを、奥さんの姿が見えてればホントに泣かない。よかった。しかし、のぼせてきたぞ、これは地味にきつい。いやいや、こー、オマエはお風呂チェアだ。お風呂チェアはのぼせたりしない。のぼせたりしないんだ。

そんな入浴タイムが終わって、しばらくすると、何事もなかったかのように息子は笑顔をみせて、あーだの、うーだの言うようになった。ほっとしたその瞬間、ボクはお風呂チェアから人間に戻ったのだった。

いやいや、お風呂チェアは風呂から上がってアイスクリーム食べへんやろ。もっと前に人間に戻っとるやないかい!・・・たしかに。