【劇場版“文学少女”】死を選ぶほどの心の闇は、そんな簡単に解消しない。

ずっと前に気になっていてもう忘れてた文学少女の劇場版。ふとレンタルショップで目に止まったから借りてみることにした。
 
見終わった率直な感想としては、重い…重すぎる。文学少女ってこんなにドロドロした話だったのか。原作がライトノベルとは思えない重苦しさ。表紙のこのやわらかな雰囲気に惹かれて何気なく見たら痛い目にあってしまう。端的に言うとそんな感じだ。
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「文学を食す」設定って必要なの?

いきなり本のページをちぎって食べ始める美少女。以前にマンガを1巻だけ読んだことがあるから、知ってはいたものの、アニメで見るとまた違った衝撃がある。で、それをたまたま目撃してしまった主人公心葉は本を食べる文学少女遠子先輩にむりやり文芸部に入部させられてしまう。
 
それにしても、この劇場版だけを見ている限りではこの「文学を食す」という型破りな設定の必要性は全然感じられない。食べることによって文学を深く味わい理解することができるみたいだけど、その能力が直接的に発揮される機会は一度もなかった。
 
ただ、その能力があるからこそ、遠子先輩は人の心の動きを敏感に察知できる感受性とか、どんなことも受け入れられる豊かな包容力を備えた人になっていったんだろうなとは思う。でも、まぁ食べなくてもいいかなぁ。重すぎる人間ドラマにいかにもラノベ的な入りやすい謎設定は必要だったのかもしれない。

感情移入するには尺が短すぎる。

これだけの深みのあるストーリーを2時間弱で見せようとするのは、やはり無理があったんじゃないだろうか。たぶん、最低限必要な情報はすべて呈示されているし、何が原因で心葉の幼馴染の美羽が精神を病んでしまい、心葉がそれに翻弄されるようになってしまったのか?という物語の核となるところは理屈では理解できる。でも、感情がついていかない。
 
それまでの積み上げがなく、それぞれの登場人物がどんな考えを持っていてどんな背景があってというのがまったく解らない状態で語られる悲劇はすべてが唐突すぎて、胸に迫るモノがないのだ。原作読んでから見れば?というアタリマエの理屈を突きつけられると何も言えないけれど。
 
自分の感情を吐き出しまくっている美羽は唯一、リアルにキャラクター像を把握できたけれど、他のキャラクターはよくわからない。そもそも、メインキャラクターの遠子先輩があまりにも人間味がなかったなぁ。なぜ、文学少女となったのか?明らかに心葉に好意を抱きながらも、なぜ遠ざけようとするのか?そのへんのことは原作では語られてるのかな。
 
それでも、遠子先輩はとても魅力的な人物として印象に残ったから、繊細な表情を丁寧に描き出した作画力と花澤香菜さんの声の力がかなり貢献してるんじゃないかなぁと思う。 

心の闇はそう簡単に解消できない。

それから、重い話になるけれど、死を選ぶほどの精神の闇はあんなに美しくは解消されないとボクは思っている。あの美羽の後ろ向きに飛び降りるという行為は、もしかしたら死ぬかもしれないという手段じゃない。どうやって助かったのかは知らないけど、奇跡的に助かっただけで本人は本当に死ぬ気だったはずだ。
 
「死を選ぶほどのツラさ」ということについては、よく議論になることだ。そしてよく出てくるのは「それぐらいのことで」とか「死ぬ勇気があるなら、なんでもできる」といった無神経な言葉たちだ。人が人を本当に理解することなんてできない。だから、むやみに自分のものさしに人を当てはめて残酷な言葉を投げかけてはいけないとボクは常々思っている。
 
何があったのかは関係なく、当人が死を選ぶほどのツラさを感じたということだけが、動かし難い真実だろう。そして、そんなツラさを味わった人は簡単に人の言葉を信じることはできなくなっている。だから、急に「幸せだったよ」とか言われても、美羽のように簡単に嬉しいと素直に受け止めることはできないのが現実じゃないだろうか?
 
ただ、ボクはアニメ映画でそんな現実を見せつけられたくはない。ある意味現実逃避したくて見てるのに意味ないもんな。だから、少々強引だなぁと思うけれど、ああいうカタチでキレイに幕引きしていくのはアリかなぁと思う。ただ、平野綾さんが熱演すぎたせいもあって心の闇を描き出すくだりだけが妙にリアルで割り切れなくなってモヤモヤしてしまったというだけなのかもしれない。

こんなに長々書くのは気になるから。

最後になるけど、何よりも違和感を感じたのは、心葉の変わり身の早さかな。あれほど悩みつづけてたのに美羽の心の闇が解消したように見えたら、さっさと遠子先輩をさがして走り去る。その途中でついでのようにフられてしまうななせはあまりにも不憫。
 
人物像がよくわからないなりにも、心葉は優しくて人の気持ちを考えすぎて動けない人という印象を持ちながら見ていたんだけど、ラストに向けての行動はその人物像を思いっきり覆すぐらいの勢いがあった。それほどに遠子先輩が好きなんでしょ!と言われれば、納得するしかないけどね。
 
やたら難癖をつけるように書いてしまったけれど、ボクは文学少女はキライじゃない。だって、キライなものにこれだけの長文書くのは時間がもったいないもんね。それどころか、こんなに気になるモノを見せられたら、もっと知りたくなってしまったので、原作を読んでみようかなぁと思う。
 
少しは文学を食すことの意味がわかるようになればいいな。