【この世界の片隅に】何気ない日常を退屈だと思えるのは、とても幸せなことだ。

淡々と描かれる何気ない日常。

はじまってしばらくの間は、淡々と場面が移り変わりながら、なんでもない日常が描かれていく。ほんわかした画風はスキだし、のんの声も合ってる。でも、正直言ってこぞって賞賛されるほどかなあ?と思いながら見続けていた。

よく知らない人に嫁ぐために1人で知らない土地へ移り住む。家事は足を悪くしてる義母のぶんまでがんばらなきゃいけない。井戸の水くみとか、かよわい女性の仕事じゃないよなぁ。できるものなら、ボクが代わってあげたいよ、すずたん。なにこれ気持ち悪い。情けないけど、3歩歩けばギブアップしそうな自信がある。

世界が混沌としていても、何気ない日常を守りながら生きる人たちの姿。何気なさすぎて傍観者として眺めるボクにとっては退屈にも思える生き様。しかし、これがこの物語にはなくてはならないものだったとあとで思い知ることになる。

なんでこんな自分が生かされているんだろう。

タラレバがぐるぐるめぐる。そんなの意味ないと頭ではわかっていても、エンドレスリピートされる。「タラレバつまみに酒のんでろ」とか、とてもじゃないけど言える状況じゃない。

ボクのような女々しい男は、ささいなことでくだらないタラレバにしょっちゅう浸っている。あのとき、あぁ言ってレバ。もうちょい早く動いてタラ。たぶん、人の命が失われるような状況に陥ってしまったなら、タラレバの洪水だろう。そして、なぜ、自分が生き残ってしまったんだろう?そんな葛藤を抱えながら、ことあるごとに情けない自分と向き合って、なんでこんな自分が生かされているんだろうと沈みゆくんだ。

簡単に壊したり、あきらめたりしていいのか?

どんなに残酷な現実を突きつけられても、絶望にうちひしがれても、それでも生きる。ただ生きるのではなくて、ちゃんと人に感謝しながら生きていくすずの姿にボクは必死に涙を堪えていた。おちつけおちつけ、ここは映画館。

これは作り物じゃなく過去にあった現実。この世界のそこかしこですずと同じかそれ以上の耐え難い現実に潰されそうになりながら、それでも立ち上がって前に進んでくれた人たちが、残してくれた世界に今、ボクは生きている。

「明日死ぬかもしれない」なんて怯えることなく生きられる世界にも、その時代なりの耐え難い現実はあって、絶望することもあるだろう。でも、簡単に壊したり、あきらめたりしていいのか?そう思わずにいられなくなった。

哀しいかなこんな思いは忙しい日常に少しずつ削られて、いつのまにかボクは忘れてしまうだろう。もう何回も繰り返してるもんな。また忘れたころにもう一度見返したい。

この世界の片隅に 劇場アニメ公式ガイドブック

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